田中慎弥「共喰い」すばる10月号

田中慎弥「共喰い」すばる10月号

仕事の休憩時間に読みはじめて、危うく遅れそうになった。ひさびさに、食い入るように読んだ。とても人に勧められる内容ではなく、気分の悪くなる小説でありながら、これはすごいと思わせる小説だった。

読んでいて「作っている」感じがすごくする。作者はかなり作りこんでいると思わせるところがある。ところが、あるにもかかわらず、「作っていない感じ」がする。え? 何をいってるかわからない? もちろん、私にだってわからない。

暴力とセックスが、この小説を支配している。そして、地方の、土着の、むき出しの人間性が現れている。中上健次ではないかと思うが、私は恥ずかしながら中上健次を読んでいないのでわからない。

ただ、ここまで手堅い文章を書きながら、ここまで人間の暗黒面に迫ってくる作家は、そうはいない。

ひとつだけ、残念な点がある。父を簡単に殺すべきではなかった。悲劇のあとも、父は生存し、主人公たちを圧迫する存在でありつづける。そういう物語にしてほしかった。

父は存在し続けるそのあとの、地獄のような日々を、私は気分が悪くなりながらも、きっと読まずにいられなかっただろう。