西村賢太「苦役列車」

そんなわけで、芥川賞候補を読むの3回目です。念のためいちおう断っておきますが、順番には意味はありません。登録されたファイルの順番で、それは内容を知らないでやってます。

 通勤電車ではないが、「自炊」してしまったので、紙ではなく、PDFになっているので、iPhoneで読みました。で、iPhoneだからなのかどうかは判別がつかないものの、この小説は、一気に読めて、しかも、面白かったです。ただ、人に勧めるか、というと微妙ではあります。

 読み始め、毒のある、一昔前の雰囲気を漂わせた文章を受けつけるには、若干時間がかかったものの、結局、面白い小説でした。そして、偽悪的というか、横柄で、尊敬できるとはとても言えない主人公の行動とその言葉に、結局、共感し、寂しく切ない気持ちになってくる、つまり、感情を動かされていました。

 とはいえ、続きが読みたいわけです。いわゆる主人公の日常と独白を、ある期間からある期間まで書いて、ぶつ切りにしただけであって、話は終わっていない感があるわけです。とはいえ、私小説というのはそういうものなのかもしれませんが。

 どちらかといえば、オーソドックスなタイプの小説ですが、作り込まれた感のある「第三紀層の魚」とはまた、違った味わいがあり、こういう作風は他とは違うなにかを持っているので、個人的には決して好きではないが、残しておきたい思う。人に不快感を与えながらも、多くの人に認められる手段を見つけたら、ブレイクするかもしれないと思う(ビートたけしみたいに)。

 とりあえず、芥川賞候補3作品を読み終わりましたが、実にレベルの高い勝負です。とりあえず、どれが取っても、まったく違和感がないと思います。

 ちなみに、野球のピッチャーに例えると、ストレートの球ばっかりを投げて、しかも、それほどのスピードはない。ところが、ここぞというタイミングで、超スローボールを投げるので、打てない。三振、といった感じです。へぼそうに見えて、実は頭脳派で技巧派といったところでしょうか。

新潮 2010年 12月号 [雑誌]

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