その他の芥川賞候補など

さて、いろいろと忙しい日々が続いておりますが、なんとか更新してみます。
この3日間某所にてスキーに行ってきました。子供たちと滑るスキーはとても楽しいのですが、スキー場が毎年閑散としていくことに、寂しさと不安を感じます。このまま、楽しいスキーが続いていくことはないのではないか。と。

実際のところ、費用の面でも、スキーというはかなり大変になってきています。よっぽど好きな人じゃなければ、スキーなど行かないだろうし、そうでない人もスノボーの方が人気でしょうし。

といいつつ、芥川賞候補を読むの4回目です。実はスキーの前に読み終わっていた、残り2作ですが、なんとなく感想を書く気が起きずにいましたが、明日、選考があり発表があるので、なんとかがんばって書いてみます。

小谷野敦「母子寮前」

 まず、読みながら、これはノンフィクションであって、小説ではないという感覚でした。これを小説と見なすことは、もちろん可能なのですが、そうしたときに、この小説での登場人物や出来事、たとえば「母親が虚構である」となった場合に、この作品の魅力とはなんだろう?と思ってしまうわけです。ノンフィクション、あるいは体験記としては、著書も多数ある人の筆なので、読むことに抵抗はなく、また、その赤裸々な書き方には、一種の魅力があるとは思うものの、小説としてどうか、と言われると、首をひねってしまいました。書いた本人も、母親の出来事を嘘だとすることには抵抗があるのではないでしょうか。私は、小説としてあるべきなにかが、欠けている感じがして、小説として評価することはできないと思いました。

穂田川洋山「あぶらびれ」

 作中「センゲン堂」という旅館が出てくるのだけれど、これは「ゲンセンカン主人」のパロディなのかどうか、と考えながら読んでいました。つげ義春のまんがを読んで、この小説を考えているとしたら、意図的に構成の美しさを壊しているのだと思われますが、それが成功しているとは思えませんでした。ただ、唐突な終わり方にしてもそうですが、ナンセンスな部分のいくつかから、物語の定型から外に出ようとしている努力のようなものは感じました。ただ、それが、結局のところ、魚の養殖だったり、農村部の現状だったりするところの妙な現実感のある記述とは、あまり合っているとは思いませんでした。

ねじ式 (小学館文庫)

ねじ式 (小学館文庫)

というわけで、芥川賞候補を全作品読んだわけですので、私の個人的な受賞作品の検討をしてみます。

まず、巧さからいえば、「第三紀層の魚」です。ただ、このオーソドックスな作品は、新人賞として芥川賞ではなく、むしろ川端賞などをあげるに相応しい作品だと思われます。ただし、この作者はすでに川端賞を受賞していて、芥川賞をあげる必要のない位置にあると私は思います。ですが、実際のところ、川端賞を受賞したから、本が売れるというわけではない現状では、芥川賞を受賞して、知名度をあげてほしいという気もします。でも、私個人としては、はっきり言って、そんな必要はなく、受賞の有無とは関係なく、この人はきっとずっと書き続けるだろうという思います。芥川賞を受賞しないで活躍している作家はたくさんいます。私は、田中慎弥という作家はそういう作家になるのだろうと思います。

一方、「きことわ」ですが、新しい才能という意味では、一番の作品とは思うものの、すばらしい出来とは思えないというのが感想です。もう数作を待ってもいいのではないか、という気がしています。ただ、明らかに才能を感じさせる人ではあるので、この先の展開が楽しみです。

では、「苦役列車」はどうでしょうか。この作者も、すでに何作か著作もあり、芥川賞の候補になっています。機が熟す的な意味では、この作品が受賞するのがもっとも妥当だと思われます。

そんなわけで、「苦役列車」が受賞作、と予想しますが、いかがなりますことか。
いろいろと言われていますが、芥川賞がある種の政治的な要因で決まったりするようなことは、ないように思います。また、選考委委員も、かなり誠実に、また小説というものをきちんと愛する立場で選んでいる気がしています。

ならば、個人的、そして作品的には、「第三紀層の魚」がもっともおすすめであり、この作品が受賞するかもしれませんね。