田中慎弥「第三紀層の魚」

てなわけで、iPhoneで読んだ。すばる2010年12月号に掲載の田中慎弥第三紀層の魚」

すばる 2010年 12月号 [雑誌]

すばる 2010年 12月号 [雑誌]

ひとことでいえば、すばらしい小説だった。再読したいと思っている。

何ページか読んで、芥川賞はこれで決定だとすら思った。ほかの候補作はまだ読んでいないのに……、でも、この作品を超える作品が候補になっている確率はとても低い、というか、たぶんない。

田舎の少年と、曾祖父、祖母、母、という不思議な関係が描かれている。しかも曾祖父と祖母と母とには血のつながりはない。互いに、すでに死んだ息子の親であり、妻であるという関係で、しかし、曾祖父と祖母は一緒に暮らし、少年はそこに出入りしている。

純文学にありがちな、精神異常者もいなければ、都会のフリーターや派遣社員もいない。しかし、どの登場人物も、複雑な背景をもって生きていることがわかる。ほんの脇役の少年の友達にも、小説にかかれてないところまで想像できてしまう作り。

NHKのドラマになりそうな、オーソドックスな、誰にでも受け入れられる良質な小説だった。あるいは、映画にして、うまくすればカンヌで賞をとりそうな、そんな物語だった。

最後に、死体を包むエピソードも意味深だし、魚が釣れてからもいい。非常に良くできていて、あるいみ、出来過ぎ感があるのが、唯一の欠点か。しかし、ここまで作れるなら、それを欠点とはいわないでいいんじゃないか、と思う。

これ、芥川賞じゃなくて、川端賞をとりそうだ、とおもったら、この作者、川端賞をとってるんですね。そうなんだ。じゃあ、そんなもう芥川賞なん***ないじゃんと思ったりしたが、どうしてもとってもらいたいと推してる人がいるんでしょうね。気持ちはわかります。

もう芥川賞候補とか、どうでもいいです。
すっかり、ファンになりました。この人の文庫を購入リストに入れておきましょう。


切れた鎖 (新潮文庫)

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