群像1月号に載っていた川上弘美の短編読切「小鳥」を読む。実をいうと川上弘美の小説を初めて読んだのだが、こりゃあ飛び抜けた才能だと思った。

リアリティとリアルの違いというものが、小説にはつきまとう。小説とはそもそも嘘なのだから、本当にあったこと(つまりリアルなこと)を書いても嘘臭くなってしまう。といって変に創れば、それはそれでもっと嘘くさくなったりする(つまりリアリティがなくなってしまう)ものだ。

だから、どのようにして本当にあったことのように読者に思わせるか、そこが小説のいわゆるひとつの要なんですね。

で、比較するとなんなのだけど、同じ群像で新連載をはじめた青山七恵の場合、ああ、いるよね、こういう人がという人が出てきて、そこにリアリティがある。本当にいそうな人が、やりそうなことをやっている日常が描かれて、なんでもないようだけど、なかなかこうは書けない上手さがある。

けれど、川上弘美のこの「小鳥」の登場人物たちは、まったく嘘臭い。起きる出来事も本当あったように思えない。思えないのに、リアリティはあるのだ。

ありえない設定の小説は、もちろんたくさんある。しかし、この小説では、嘘と本当のギリギリの境い目に設定を持ってきている。だから、一見普通だけれど、よく考えると、嘘だ。でも、小説世界に入っていると、その嘘に気がつかなくて、奇妙な違和感となる。なんとなくメルヘンチックな、それでいてどこかザラリとした残酷な現実感もある。

まったく期待していなかっただけに、これはたいへんな拾い物だった。

群像 2010年 1月号 [雑誌]

群像 2010年 1月号 [雑誌]