小山内恵美子「おっぱい貝」文學界4月号

小山内恵美子「おっぱい貝」文學界4月号

 第42回九州芸術祭文学賞 最優秀作
ということで、文學界4月号に載っていた「おっぱい貝」を読んだ。

 最近、口にするのが、恥ずかしいタイトルの小説が多いような気がするが、目立つけど、いいこととは思えない。なにせ、道ばたとか電車のなかで「あのさあ、「おっぱい貝」を読んだんだけどー、結構よかったよ」などということは、果てしなく言いづらいからだ。

 とはいえ、この作品はタイトルにも意味があるので一概にだめとは言えないところではある。

 選考委員のコメントも載っており、五木寛之氏のいうことがいちいち私と同じ意見で、何とも言えないのだが、一文に、複数の意味を込めた重層的な文章で、まず、そこに1ページ目からやられた。最後に、大きな貝が登場するところも、なんともいえない奇妙な感覚があり、これは小説なんだと、納得させられてしまった。


引用してみる;
「奥さんの手のなかで、身が貝殻からとりはずされていくのを見ていたら、自分から赤ちゃんが引きはがされていくようなイメージがとつぜん頭に浮かんできて、すべて食べものは残酷にも殺された死骸なんだということが胸にせまってきた」

 この前には、とても珍しくておいしい貝だということ、後には、食べる場面がでてくる。しかし、ここで引用した文章は、あきらかに、美味しい食べ物に対する礼賛ではない。むしろ、食べることが罪であり、無数の死、犠牲の上に生命がなりたっていることを語っている。しかし、かといって、それを否定しているわけでもない。「赤ちゃんが引きはがされる」という言葉には、食べるために生命が殺される、という意味と同時に、赤ちゃんが母親のお腹から離れる=生まれるという意味も含まれているのだ。

 「人間の頭のような大きさ」だとか、道路工事現場の若い作業員の下半身だとか、いろいろと意味深で、ストーリーに直接関係ない場面でも、何らかの意図があるように思わせる。これは確かに、才能のある書き手だと思った。

 これは芥川候補でもおかしくない。

 次作も読みたいが、さてどこに掲載されるのだろう。文學界の方、書かせてくださいな。