そんなわけで、この2日、仕事の行き帰りで文藝賞受賞作にして、芥川賞候補で、なおかつもう単行本になっている2作品を読んだ。

犬はいつも足元にいて

犬はいつも足元にいて

ボーダー&レス

ボーダー&レス

関係ない話だが、文芸誌を買い続けるのは、ちょっとお金がたいへんだなあ、と思っていた。毎月5誌買っていると考えると、月5千円なのだから。ただ、私はいまのところ文庫も普通のハードカバーなども買う気があまりないので、ほとんど文芸誌しか買っていない(つもりだけど、そうでもないか)。楽しいけど、大して読みもしないのに買い続けるのはもったいないのではないか、と思っていた。

が、しかし、私は気がつく。話題になった純文系の小説のかなりの数を、すでに所有しているということ。そのいくつかは単行本になっているが、だいたい1500円程度はする。ところがこっちは千円弱で買っているのだ(しかも他の作品や対談やらなんやらもある)。

ま、雑誌ってそういうものなんだけれど、今回特に感じる。「ビッチマグネット」「老人賭博」そして、文藝賞の二作、ほんとにお金の節約になっているかというと、そんなことはないと思うけれども、単行本になってわっーと話題になったときに「ああ、おれ持ってるよ」みたいな余裕の態度がとれるのが、なんか楽しい(読んじゃいないのが苦しいのだけど)。

 閑話休題

 で、この二作品、一言でいうなら。
 「犬はいつも足元にいて」気持ちわるい。
 「ボーダー&レス」さわやか。
 みごとに正反対。ペアで受賞は、バランスがいいからなのでしょうか。

 「ボーダー&レス」は、マンガっぽい、たぶん耽美系といわれる女性向けホモマンガ&小説の影響が感じられます。この作者、結構フェミニストじゃないですかね。単なる偏見ですが。ようするに、異性の恋人じゃなくて、同性の友人をとる話に読めてしまうからです。
 でも、物語を作ろうという意志は感じられます。最後に山場(まさに山場であり、でも文字どおり丘みたいな盛り上がりに欠けた山場)があるからです。
 在日をテーマにしているということで、この作品は特徴づけられていますし、実際、在日の方のあり方がいろいろかなり丁寧に描かれていて、そこはとてもいいのですが、この小説の本当にキモは「セックスの圧倒的な正しさ」ではないかと思います。そこをもっと掘り下げていただきたかったと思いました。次の作品は、そこを逃げないで描いてほしいですね。つまり、語り手と寺内という女性の関係なんですが、なんとも中途半端ななまま、投げ出されてしまうのです。
 さわやかな青春小説の書き手になりそうな予感がします。

 「犬はいつも足元にいて」
 ニュースなのでは、二人の共作ということが強調されていて、正直、内容のことが話題にならないのかなあ、と思っていましたが、まあ、この内容では話題にしにくいでしょうね。下品だし、気持ち悪い、読み手を不快にさせる小説だからです。
 だからといって、ダメな作品だとは思いません。ところどころ個性的な、あ、すごいなと思うようなところがあるからです。とはいえ、下ねたスカトロネタの苦手は私としては、あまり人に薦めたい作品とは思いませんでした。
 あいかわらず勝手な想像ですが、この作品には、ゲーム、とくにアドベンチャーゲーム(PCエロゲー)の雰囲気が漂っています。いろいろな風呂敷(腐った肉とか、ナンバーセブンのおじいさんとか)さっぱりたたまれないまま終わってしまうので、いったいなにがいいたいのだろう、というのが正直な感想でした。友人の母親の台詞だとか、軍隊の行軍の話だとか、おもしろいところもありました。とくに、気持ち悪い人間ばかりのなかで、主人公の父親だけは、普通の人間で、この人の犬を捨てるのエピソードではぐっと来ました。息子の嘘にまんまと騙されて、お金を渡すなど、この小説でもっとも共感できる人物であり、この人がいるから、気持ち悪さが緩和されているのだろうと思います。
 で、やっぱり、物語的なものはあまりなく、これから!というところで終わる感じでした。小説の善し悪しを勝負するのはこの先ではないでしょうか。
 というわけで、どう評価していいのかわからない作品でした。

 芥川賞、どちらかといえば、「ボーダー」に可能性があるのではないかと思いますが。