そんなわけで、群像1月号に掲載されていた「小鳥」を異様に気に入った私は、この短い小説を3回読んで、これは他も読もうと思って、一冊買ってみた。
センセイの鞄

センセイの鞄 (新潮文庫)

センセイの鞄 (新潮文庫)

映画にもマンガにもなっていたりして、谷崎賞もとっている。ベストセラーだ。いまさら何やってるんだと思う人は多いでしょう。私も自分でそう思います。

でも、正直いって、一気に読んだので、面白かったのは確かですが、流行っているときにも、私が手を伸ばさなかったのはさもありなん、よんでやっぱりそういう内容でした。とはいえ、「小鳥」の印象があるので、普通とは違った視点で読めた気がしますが。とにかく、恋愛小説としては、キモであろう最後の盛り上がりは、私にとっては興醒めであり、むしろ、前半のたんたんとした日常がずっと続く方がよかったのではないか、と思いましたし、そうしたらもっといい、何度でも読める小説になったのになあ、と残念に思いました。そう思う人多いんじゃないかな。

内田百の話題が出てきますが、夏目漱石の「こころ」もセンセイですから、入ってるでしょうね。鞄が空っぽなので、空想の産物だということは、明らか。幽霊と交際する話だというのも、善し悪しはともかく、妥当な意見だと思います。

斎藤美奈子の解説にも書いてありましたが、
平凡社の月刊誌「太陽」に連載されたそうで、各章ごとに季節感も入っていて(話題から何月号だか類推できる)、川上弘美さんは職人の仕事をしています。当然、読者層に向けた設定をしたんでしょうね。ということで、渡辺淳一が日経で連載するときの職人芸と、似たものを感じましたよ。しかも、女性が読んでもいいように書いてあるわけだがら、そりゃあベストセラーになるさ。
とはいえ、毎月これが「太陽」に載っていて、おじいさんと30代の女性が、酒飲みながら、いろいろしゃべったりする小説を読むということを、連載時のリアルタイムで体験したかった気がします。まあ、私はそんな年齢じゃありませんが。

ベストセラーになった小説って、その作家にとってそれほどのことはなかったりするので、別なものも読んでみましょう。