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彼は雨に濡れたまま、アスファルトの上を踏んで行った。雨はかなり烈しかった。彼は水沫の満ちた中にゴム引の外套の匂を感じた。すると目の前の架空線が一本、紫いろの火花を発していた。彼は妙に感動した。彼の上着のポケットは彼らの同人雑誌へ発表する彼の原稿を隠していた。彼は雨の中を歩きながら、もう一度後ろの架空線を見上げた。架空線は相変らず鋭い火花を放っていた。彼は人生を見渡しても、何も特に欲しいものはなかった。が、この紫色の火花だけは、----凄まじい空中の火花だけは命と取り換えてもつかまえたかった。
(芥川龍之介「或阿呆の一生」)
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より
近松門左衛門をさぐるのは、いまいちな成果しか上がらなかった。
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近松で読んだのは、この3冊だけですが、小林恭二と岩波文庫の解説が、論旨が似ていて、要するに「崇高な愛の姿としての心中」が表現されている(というか恋の手本って原文に書いてある)、ということだった。2冊目は文楽と江戸時代の大阪が中心の話題で、こっちが知りたい、なぜこの作品が熱狂的に受け入れられたのかはよくわからなかった。
で、今度は芥川龍之介に進む(?)。高校生の頃買った文庫を見つけて、読んだりしていると、さすがにその当時に感じた印象と、かなり違う。あと、最近の文庫の解説と、昔の解説の質というか量いうか、全然違う。まあ、上の岩波文庫は、そういう意味で昔ながらの解説です。
しかし、偶然というかシンクロニシティについて、考えてしまう出会いがあります。芥川龍之介とアスファルトがつながるとは思ってもいませんでしたが、ここにあったりするわけです。ほんとに偶然?
小林恭二の本を発見したのも、S—Fマガジン2009年5月増刊号「STRANGE FICTION」で、昔の小説が紹介されていたからだった。彼が、曾根崎心中の本を書いているならば、買うのは私にとっては必然。
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そのようにして、同じ時期に読んでいた芥川龍之介に戻る。