文芸誌を最近買ってるんですよ。なんて話を昨日の飲み会でいったら、どんな作品が良かったですか、と訊かれて、うっとつまる。
 ドナルドキーンとか、橋本治とか、そういう話を期待されているわけではなく、新人あるいはそれに準ずるまだ評価の定まっていない人で、私が注目しているのは誰か、という質問だ。
 でも、何誌か買って結局、まともに読んだのは、青木淳吾「TOKYO DIVER」とかいうエッセイみたいな小説と、青山七恵の司書見習いの話ぐらいだったけど、どちらも、すんなり最後まで読める文章力はあって、いいのだけれど、肝心の内容はそんなに人に薦めるようなものでもなかった。
 それで、というわけでもないけど、いままで買ってなかった、「すばる」4月号を買ってみて、取り合えず、読んでみた。
いきなり冒頭が、吉田秀和のエッセイ。おおっとたじろぐ。こんなところで、読めるとはね。NHKFMの番組があって、しょっちゅう聞いているので、あと「主題と変奏」も読みましたよ。音楽評論の古典。もうおじいちゃんなのに、こんなところに書いているなんて。
 と、いきなり不意打ちを食らったので、そのまま、山崎ナオコーラ「ここに消えない会話がある」を読む。最後まで。
 登場人物が多すぎて、いまいち誰が誰だかわからないものの、やはり文章の力があり読んでしまう。テレビ欄を配信する会社で働く人々を描いているのだが、仕事の内容も面白いし、そこで絡む人々もそれぞれ性格があって面白い。ただし、作家の意図が見えてしまうのがね。要するに、辛いかもしれない人生だけど、がんばれ!っていう話なのだよ。小説が上手いのはわかったけど、それ以上はない感じでした。
 で、そのまま、次も読んでしまおうと、帰りの電車で、岩崎保子「薔薇色の明日」を読む。
 すごい、これ。
 電車を降りそこねそうになる。
 結末はとってつけたような気がして、変なハッピーエンドだなあ、と残念な感じがしたが、途中は非常に面白かった。ふたりの女の情念が渦まくわけだけど、美人で人にたよってばかりの久美、美人ではないけれども強い女の果歩のそれぞれの立場からそれぞれの感情がありありと描かれていて、なおかつひとりの男の争奪戦の様相もありスリリングだ。途中ででてくるナンパ男の狂った台詞では、これからどう転がっていくのか、予想もつかない展開で、すばらしい。
 ただ、その後、結局、狂った男は脇役に過ぎず、ちいさく物語が収束してしまったように思う。
 それでも、かなりの長さだったが最後まで、一気に読んでしまった。
 やっと、これで「最近の注目の新人作家は?」と言われたら、迷わず「岩崎保子」と答えられる。
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著書はまだ一冊のようです。

世間知らず

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