というか、はっきりいって、ブログを書いたりしている場合ではなく、というか関係者にバレたら、おまえそんなことしてる暇があるなら云々、と後ろ指をさされそうな勢いでいそがしいのだが、そんなこといったって、人間に余暇や趣味は必要だし、それがあってこそ人間だし、だからこそ文化的に最低限の生活が憲法で保障されているのではないのか、とか書いてる間に本題に入れよ、といいつつ、この忙しいのに主に電車とホームで読みましたよ、重たいハードカバー。しかも2巻。

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号

モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号

 モンキービジネスには、村上春樹古川日出男によるロングインタビューが載っています。そんなにたいしたことは書いていないけど、ひさびさの村上春樹の営業活動であります。

 さて、私、村上春樹の長編は「カフカ」以外は読んでおります。そういうわけで、「1Q84」の1巻は、はっきり言って「いままでの再生産」でしかない、という感想でした。タイトルからしジョージ・オーウェルのもじりなわけで、こりゃSFが入ってるだろうなと思っていたら、案の状でした(個人的にはうれしい)。構成や物語のベースに、最高傑作とよくいわれる「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」があるのは確実で、逆にいえば、それだけ力も入ってる、気がしました。すくなくとも冒頭の首都高のシーンは、ハリウッド映画を思わせるつかみでしたから。しかし、その後、「世界の終わり…」にあった、ファンタジー色は消え、そのかわりにエログロが入ってきます。これには辟易しました。あとは、昔はかっこ良かったけど、いまでは苦しいお得意の気取った比喩も、かなり抑えめで、わりとシンプルな文章になっております。読みやすいけど、個性は薄れた。

 分厚い2冊をほぼ一気読みしたので、とにかく面白かったことは事実です。非常にチープなマンガのようなネタをつぎつぎと繰り出してくるので、いまや「世界の巨匠」が書いているということを抜きにしてしまえば、面白いエンターテイメントだと思います。とはいえ、2巻では終わらず、おそらく全4巻でどう展開するのか、まったくわかりません。でも確かに続きが気になります。

 ネタバレになりますが、2巻まで読むと、これはフレドリック・ブラウン「発狂した宇宙」のパロディというかこれが元ネタだろうという感想を持ちました。

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

火星人ゴーホーム (ハヤカワ文庫 SF 213)

火星人ゴーホーム (ハヤカワ文庫 SF 213)

 そうすると「リトル・ピープル」は「火星人ゴーホーム」の火星人でしょうね。となると、チープなネタをどんどん入れるというのも、フレドリック・ブラウン的なことで、わかっててやってるでしょうね。首筋をアイスピックって「おいおい北斗の拳かよ!」とおもいましたからね。

 そういう意味でもつっこみどころがたくさんあって、読んでいる人もたくさんいそうだし、なにかと話題にできますな。宮崎駿か、村上春樹か。読んで損はないと思いますが、最初エログロが酷いので、これだけはやめてほしかったですな、本質が「純愛もの」だから、わざとエログロを強調したんでしょうが。

 以上、2巻までの読了自慢でした。


追記:ネットサーフィンして、いろいろな感想を見たけど、2巻で終わってるのが普通みたいなので、追記。これは絶対「全4巻」ですよ。一巻あたり24章(青豆12章、天吾12章)、Book1(4-6月) Book2(7-9)となれば、Book3(10-12) book4(1-3)で完結ですよ。構成の凝り方からして、当然です。ねじまき鳥のときに騙されたでしょう。この月についても、物語の時間とリンクしてますから、12ヶ月分物語があるはずです。

追記2:フレドリック・ブラウンの「発狂した宇宙」が元ネタであることは、まちがいなく、「SFマニアが書いたチープな世界に巻き込まれる」というプロットを、「自分が書いたチープな世界に自分自身と純愛の相手が巻き込まれる」と変えたのが「1Q84」です。おせっかいながら、ひとこと付け加えるならば「自分自身が作り出した物語に、自分自身が巻き込まれている」という世界状況を風刺していると解釈できます。911のテロだってそうでしょう? あるいは温暖化もそうだし、イスラエルパレスチナだってそういうふうに考えられるわけです。金融恐慌なんて、まさしく間抜けな夢物語にみんな巻き込まれて、現実では悲惨なわけでしょう。