なにが心に引っかかるか、というのは、まったく予測がつかないもので、というか、予測がつかないものに引っかかったときというのが、楽しくてやめられないんだろうなという気がする。
 雑誌を読むとか、テレビを観るとか、ラジオを聴くとか、そういうことに求めているものは、自分の意志とは無関係にどんどん情報がやってきて、そのうち、なにか、「あ、こんなものがあったのか!」と引っかかることなのだろうと思う。テレビは見なくなったし、しばらく雑誌も買わなくなっていた。日本の放送ラジオにも、それほど期待していない。音楽の最先端をちゃんと伝えてくれるわけではないからだ。(洋楽ならばインターネットのラジオの方がいい)

 しかし、今年始めた、純文学系文芸誌の購読は続けていて、そろそろ半年になってきているが、じつのところ、次号が待ち遠しいと思う様になってしまった。しかし、大方と同様、ほとんどの作品を読んでいない。今回の芥川賞受賞作も然り(どこが面白いんだろう?とか思うけれども、まあ、それは私の感性がちょっとずれているということなのだろう。そんなことでは、もう傷ついたりする年頃ではない。(傷つかないというのがちょっとさびしい年頃)
 けれども、ときどき当たる。そして以外と、掘り出しものがある。知らなかったけどこんな人いるんだとか、確かに、今はベストセラーにはなりそうないない書き手だけれども、これからもしかしたらブレイクするかもしれない、という人がいたりするからだ。

 さて、文學界、群像、新潮、すばる9月号で、目についたもの。

すばる
 雨宮処凛「ユニオン・キリギリス」第二回
 異様に身につまされる。この著者の文章を読んだことがなかったが、読ませる文章を書く。チープにいえば現代版のプロレタリア文学というところだが、実際に私はこういった人を雇う側だったりするので、そのリアリティにキリキリと胸がいたむ。説教臭さはまったくなく、心をきちんと揺さぶる小説になっている。

 ぼかに、柴田元幸ボストン大学講義の連載、奥泉光いとうせいこうの文芸漫談は太宰治の「晩年」、川本三郎林芙美子がらみのエッセイ、もちろんそれから吉田秀和の音楽エッセイと、かなり読みでがあった。

新潮
 野田秀樹の戯曲「ダイバー」が大傑作ではないけど、面白かった。小道具やら人物やらが、さっと変わるなど、ああ、劇場で観てみたいと思う。
 舞城王太郎は私と感性が合わず。

群像
 加藤典洋村上春樹の短編を英語で読む、と、絲山秋子の連載が開始されているけど、まだはじまりで、とくにコメントはなし。実は侃侃諤諤がいつも楽しみだったりする。創作合評で川上未映子「ヘブン」が取りあげられて、町田康が評している。

文學界 
 連載では佐藤優が面白い。対談が磯崎健一郎+保坂和志ドナルド・キーン平野啓一郎があります。

この数ヶ月で読んだ本。思い出す限り。

純粋力

純粋力

末井昭「純粋力」ビジネス社
面白いですが、とくにいうべきことはないです。この人が好きな人はどうぞ。


新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

小林弘人「新世紀メディア論」バジリコ
アメリカで流行しているものを日本に持ってきて成功させることが上手な人なんだなあというのが、最初の印象。「出版」という言葉の定義をかえる、つまり紙にとらわれることはない、という主張には賛同するけれども、結局儲かる商売として見た時、ネットでアクセス数の多いものを考えたとき、それは「出版」ではなく、「通信」つまり電話での会話を文字の置き換えたものではないのか、という気がする。「出版」が「通信」と区別されるのどんな場合なのだろうと思う。ひとつは、多くの人のネタ元になるということだろうか。そういう意味で「1Q84」は見事に成功した出版ということになるだろう。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」朝日出版社
明治から日本がどうゆう状況、理由で戦争をしていったか、ということを、歴史に詳しい高校生、大学生に解説した講義録。そういう形式だけにわかりやすいし、面白い。当時の雰囲気がわかって、その泥臭さが垣間みれる。利害、商売、つまり経済が戦争とかなり密接だということがわかる。中国との関係も私には新鮮だった。とわいえ、当時の人の気分になってといいつつ、「戦争をやるしかなかった」みたいな説得にもっていくのには注意しないといけないとは思う。

イー・イー・イー

イー・イー・イー

タオ・リン「イー・イー・イー」河出書房新社
冒頭から、やられる。雨宮処凛の「ユニオン・キリギリス」みたいな小説だが、こちらには妄想が、現実に介入していて、さらに混沌としながら未来がない我々の精神状況がキリキリと伝わってくる。

はじめての言語ゲーム (講談社現代新書)

はじめての言語ゲーム (講談社現代新書)

橋爪大三郎「はじめての言語ゲーム講談社現代新書
まあ、これで言語ゲームわかるわけがないのだけど、面白く読む。後半はどうかなあ?と思うけれども。この本でいう「言語ゲーム」的な言葉って、「エコ」ではないかと私は思う。「エコ」ってどういう意味ですか? と考えはじめて、わけがわかんなくなってくれると、成功。
 で、なぜか、アーレントが取り上げられているので、以下の2冊を買う。

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

人間の条件 (ちくま学芸文庫)

ハンナ・アーレント「人間の条件」ちくま学芸文庫
 まだ途中。でも最初の文章にはしびれます。衛星の打ち上げから始まるかっこいい文章です。

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

仲正正樹「今こそアーレントを読みなおす」講談社現代新書
 答えをだすのではなく、議論することが、アーレントの主張であることなど、面白く読めた。そして、なぜいまアーレントなのか。ということも。ナチススターリン全体主義として、社会が一つの規範に従うことを強制することに反抗することが、今、必要なことだと、感じる人がたくさんいるということ。

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)

橋本治「大不況のときは本を読む」
あいかわらず、くどい言い回しだけど、面白かった。経済の話ばかりをしておりました。

フレドリック・ブラウン「天の光はすべて星」早川文庫
村上春樹の「1Q84」から、フレドリック・ブラウンを連想したものの、「火星人ゴーホーム」は品切れ。おいおい。そのかわりに、これを買った。一時は古書にすごい値段のプレミアがついていた幻の翻訳。

ベンヤミン (ちくま学芸文庫)

ベンヤミン (ちくま学芸文庫)

ベンヤミンちくま学芸文庫
いわゆる、フォービギナーシリーズのベンヤミン。ちょっと軽く勉強しておこうと思って購入。図説というかマンガです。

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ネクスト・ソサエティ ― 歴史が見たことのない未来がはじまる

ドラッガーネクスト・ソサエティダイヤモンド社
ビジネス書も読んでみるか、と買ってみた。農業従事者が、工業の発展によって、減少したように、これから工業従事者が減っていくだろうという未来が淡々と語られる。次に来るのは、知識社会だという。すごく単純明快に書かれているのに、ああ、そういう見方もあったのか、といちいち感心してしまう。たしかに売れるだけのことはある。とても面白い。